ヒュー・コーンウェル @ 吉祥寺CLUB SEATA 2015.05.05.


2008年3月にはジャン・ジャック・バーネルのソロ・アコースティック・ライヴを新宿Loftで観ることができたけど、「ヒューのライヴは…もう無理かも」って諦めかけた矢先に届いた来日決定の知らせ。本来は2月に行われるはずだったこのライヴも5月に延期されて、(不安で)ドキドキさせられたり。でも、こうして無事に実現して本当に良かった!


ジャン・ジャックのアコースティック・ライヴも忘れられないほど素晴らしかった。その時の前座はブラッドサースティ・ブッチャーズの吉村さん。色んなエフェクトを駆使してエレクトリック・ギター1本で〝あの歌声〟を聴けたことは、今となってはとても貴重な体験だったと思う。そして、いつものベースからガット・ギターに持ち替えたJJのテクニックにもびっくり。キーボードのないストラングラーズの曲が、こんなにも違和感なく、しかもこんなにカッコいいなんて! 心残りは、そこにヒューがいなかったこと。そして、ジャン・ジャックとヒューが並ぶストラングラーズはもう永遠に観ることができないと実感してしまったこと。


ヒューとジャン・ジャックがそれぞれの道を歩み始めてからも、もう20年以上になるのか…。ようやく観ることができるヒューのライヴを前にちょっと複雑な気持ちになったのも事実。でも、ストラングラーズの曲を期待しないほうが無理でしょ。何しろ36年(!)ぶりの来日だとか。

会場となった吉祥寺CLUB SEATAはミニ・サイズのZeppみたい。開演30分くらい前から徐々にファンが集まり始める。見渡せばやっぱり…40代〜50代の男性が多い。中には60代のリアルタイム・パンクと思しき気合いの入ったオジサマも。ストラングラーズTシャツ、フレッドペリー、そして往年のヒューのスタイルに倣った黒づくめ…、ばっちりキメたセンパイたちが熱い。スペシャルズやトム・ロビンソン・バンドがSEとして流れるフロアでは、そんなオールド・パンクスが再会しているちょっと微笑ましい場面も垣間見えたり。


そして開演時間の19時ほぼぴったりにステージを覆っていた暗幕が開くと、ファンにはお馴染みの黒いテレキャスターを構えたヒュー・コーンウェルがマイク・スタンドの前に立っていた。黒いポロシャツに黒のスラックス。「もっとオシャレしてよ!」とも思ったけれど、鋭い眼光はストラングラーズ時代のままだ。何度もビデオやYoutubeで見たあの冷徹な眼差し。
「今夜は、新しいアルバムの曲といくつかのストラングラーズの曲をプレイするよ。楽しんで欲しい」
そっけないけれども、今夜がスペシャルなライヴになることを予感させるひとことで、待ちに待ったライヴが始まった。


オープニングは、13年にリリースされた(現時点での)最新作『Totem And Taboo』と同じく、タイトル・ソング「Totem And Taboo」だ。軽快なバス・ドラムのビートに乗って、ヒューの乾いたギター・カッティングがフロアに響く。ベースはアルバムのレコーディングにも参加しているスティーヴ・フィッシュマン、そしてドラムはパワー・ポップの雄、(なんと!)ポウジーズのダリウスだ。
3人が繰り出すサウンドは、パンクというよりもパブ・ロック/ガレージ・バンドみたい。決してレイド・バックしているわけではなく、ソリッド。低めのヒューのヴォーカルもしっかり聴こえる。そして、何よりも3人の呼吸がぴったり合っている。今夜のライヴへの期待がいっそう高まったことは言うまでもない。

2曲めには早くもストラングラーズの名曲「Skin Deep」をプレイ。「上っ面に騙されるな」。一気にヒート・アップするフロアを静かに見渡しながらテレキャスをかき鳴らすヒュー。時おりマイク・スタンドから離れてギター・プレイに集中する姿がやたらカッコいい。そして、気づいた。デイヴ・グリーンフィールドのキーボードが脳内で再生されているんじゃなくて、鍵盤パートをヒューが弾いているってことに。今のヒューのソロ作で鳴らされているサウンド、そしてストラングラーズの曲を(懐メロではなく)アップデートするには、この3ピースの編成がぴったりなのだろう。メロディをしっかりと。でもちょっぴりラフなギター・アレンジが良い。
バンドは次の曲を始めるためにアイ・コンタクトを取っている。ダリウスのカウントに合わせて『Totem And Taboo』の中でもいちばんポップな「Stuck In Daily Mail Land」がプレイされた。ヒューの喉も調子が出てきたようだ。ソロの曲でもフロアの反応は悪くない。むしろ熱気は増している。

そして4曲めはストラングラーズの代表作であり、〝パンクそのもの〟の代表作でもある『No More Heroes』から「Dagenham Dave」(モリッシーのアレとは同名異曲ね)が放たれる。これは本当にうれしい驚き! だって、オリジナルはジャン・ジャックが歌っていた曲だから。先述のJJのソロ・ライヴでも当時のエピソードを語ったあとでアコースティック・ヴァージョンが披露されていた。ジャン・ジャックとヒュー、それぞれのヴァージョンを聴けるなんて!
そこで、ようやくハタと気づいた。今夜はソロとストラングラーズの曲を交互にプレイするんだな。フロアのファンもそのことに気づいたらしく、ざわつき始めた。アンコールに〝とっておき〟のストラングラーズ、ではなく、〝まんべんなく〟ストラングラーズってこと。「ソロを聴け!」というエゴを抑えて、ファンの(正直な)気持ちをお見通しのヒューはやっぱりクレバーだと思う。


正直に言えば、僕も最近のヒューのソロをちゃんと聴いていなかった。けれども、終演後に物販で迷わずCDを購入。2,000円でほぼ自主制作。かつてのパンク・ヒーローにしてはあまりにも切ないリリース状況だけど、こんな最高なライヴを観たらアルバムを買わずにいられないと思う。実際、そんなファンがたくさんいた。「ストラングラーズの曲が目当てだったけれど、ソロも良いじゃん!」って、きっとヒューの目論みどおり。そして、アルバムを聴くたびにこうしてライヴの熱気がよみがえるんだ。
ヒューのカリカリに乾いたテレキャスの響きとソリッドなバンド・サウンド。ダークだけど、ポップなメロディ。この『Totem And Taboo』の〝Recorded & Mixed〟を担当したのはスティーヴ・アルビニ(!)。ヒューとの相性は最強。ニルヴァーナ『In Utero』や初期のピクシーズ、最近だとクラウド・ナッシングスでのアルビニ・ワークスにグッときた人には、このアルバムもおすすめ!

Totem & Taboo

Totem & Taboo

閑話休題。ダリウスのドラムはジェット・ブラックよりも太くてヘヴィ。けれどもビートは軽快だ。さすがポウジーズ! パワーなポップのツボを押さえてる! おかず少なめなアレンジはジェット・ブラックへのリスペクトかな。スティーヴの野太いベースに絡み合う低音とドライなヒューのプレイ・スタイルとのコントラストが最高にクールだ。僕が観たクリブスアークティック・モンキーズにもまったく引けを取らないサウンド。もっと若い人にも知って、聴いて、観てもらいたい。


「Strange Little Girl」の詩情、「Duchess」のポップさ、そして「Nice 'N' Sleazy」のオリジナル・パンクスならではのタフさ。次々と出し惜しみなく繰り出されるストラングラーズの曲に、みんながシングアロングとハンド・クラップでしっかりと応える。そして、織り交ぜられるソロの曲もカッコいい。だからこそ、バンドも僕たちも楽しめるんだ。ラストは「Always The Sun」かな? と期待していたら、全力の「No More Heroes」でした。ようやく、この歌の意味がしっかり伝わる歳になったよ。(残念な皮肉だけど)今の日本にもぴったりな曲だ!
スペシャルなライヴをありがとう! 次は…30年以上も待たせないでね。

〈Hugh Cornwell @ 吉祥寺CLUB SEATA 2015.05.05.:セットリスト〉
1. TOTEM AND TABOO
2. SKIN DEEP
3. STUCK IN DAILY MAIL LAND
4. DAGENHAM DAVE
5. I WANT ONE OF THOSE
6. DUCHESS
7. BEAT OF MY HEART
8. STRANGE LITTLE GIRL
9. GOD IS A WOMAN
10. PEACHES
11. GODS GUNS AND GAYS
12. (GET A) GLIP (ON YOURSELF)
13. A STREET CALLED CARROLL
14. STRAIGHTEN OUT
アンコール
15. IN THE DEAD OF NIGHT
16. NICE 'N' SLEAZY
17. NO MORE HEROS