Fleet Foxes at 新木場Studio Coast 2012.01.20.

嬉しくって叫び声を上げてしまうほどの1月の来日ラッシュ。僕は6日のクラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーから始まって、カサビアン(15日)、ノエル・ギャラガー(16日、のちほどブログにアップします)のライヴを楽しんできました。惜しくも行けなかったけれど、メトロノミー、フォスター・ザ・ピープル、ベイルート(行きたかった!涙)、ダニエル・ラノアのライヴも行われていた真冬の東京。アツすぎる!
そして20日には、いよいよ待望のフリート・フォクシーズの初来日公演。仕事のスケジュール調整もなんとか上手くいって、みぞれまじりの空模様を見上げながら新木場スタジオ・コーストに向かいました。

ライヴ前日にネットでアナウンスされたドラムのジョシュ・ティルマン(写真、右から2人目)の脱退というニュースに少し動揺。フリート・フォクシーズのライヴをようやく見ることができると思ったら、彼にとってはこのバンドでの最後のステージになるなんて。そんな思いと「やっとフォクシーズが見れる!」という期待がこんがらがったまま、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「Black Angel Death Song」が流れる会場へ。
ステージのバックには大きなスクリーンが設置されていて、輝く水面に佇む帆船の油彩画が映し出されている。バンド名(キツネーズ)やアルバム・ジャケットの印象、ヒゲ面のメンバーたち、そしてアコースティック・サウンドとコーラス・ワークなどから彼らには「森林と山岳地帯」のイメージを持っていただけにちょっと意外な感じ。

会場に集まったファンは若いカップルやスーツ姿のサラリーマン、パーカを着込んだインディー好きっぽい男子、かわいい女子、元気な外国人の皆さんと実に多彩。ギュウギュウに押し合うこともなく、開演待ちのSEに体を揺らしたり、静かにおしゃべりしたり。そして、定刻の7時を10分ほど過ぎた頃、SEが鳴り止んで6人のメンバーがステージへ。
僕は向かって左手の前から2列目あたりをしっかりキープ。視線の先には、緑色のヨレヨレTシャツを着たドラムのジョシュの姿が。小首を傾げながらドラム・キットでスタンバイする彼にホッとするのも束の間、ヴォーカルのロビンがアコースティック・ギターをかまえると「The Plains / Bitter Dancer」でライヴは静かに、厳かにスタート。絶え間なく静かに降り続ける雪の映像に切り替ったスクリーンの雰囲気が、今の気分にぴったり。絶妙なコーラス・ワークとアコースティック・サウンド、そして控え目なライティングがひとつになって会場を包んでいく。息をひそめて見守っていた観客も、鮮やかなロビンの歌声とコーラスが重なった瞬間にさざ波のような歓声を上げる。

Fleet Foxes + Sun Giant EP(フリート・フォクシーズ + サン・ジャイアントEP)

Fleet Foxes + Sun Giant EP(フリート・フォクシーズ + サン・ジャイアントEP)

少し不安定だったヴォーカル・マイクのPAも3曲目「Battery Kinzie」あたりから引き締まる。ロビンのヴォーカルはCDで聞くよりも力強く、伸びやかだ。そして、やはり3声、4声と重なっていくコーラス・ワークに耳を奪われる。ドラムのジョシュもふてくされることなく、コーラスに参加している。歌えるドラマー(実はソロでもイケてるマルチ・プレイヤー)、礼儀正しそうなメンバーの中で唯一のワイルド野郎。そんな彼が今夜限りでバンドを去ってしまうのは本当に残念だ。
「今日で脱退するメンバーがいるライヴは、どんな気持ちなんだろう?」そんな僕のドキドキも知らずに、ロビンは淡々とステージを仕切る。メンバー同士のアイ・コンタクトも会話もなく、ライヴは名曲を繰り出しながら中盤へと進む。1曲ごとのチューニングが間延びする感じで、ちょっともどかしい。繊細なレイヤーを描くコーラス・ワークのためには、仕方がないのかな。それでもメンバーが曲ごとに持ち替えるマンドリン、ウッド・ベース、フルートなどのアコースティック・サウンドはバランスよく鳴っている。選び抜かれたアコースティック楽器。それは彼らのサウンドの要というよりも、デリケートなコーラス・ワークを最大限に活かすための必然なのかもしれない。

“固唾を飲んで見守る”という雰囲気だった会場の空気がようやく暖まってきたのは「White Winter Hymnal」あたりから。“I was following, I was following”—あの親しげなメロディの輪唱が響き渡る瞬間は全身に鳥肌!とんでもないものを見た!そんな気分。そして、ロビンも観客の声援に冗談で応える余裕が出てきた。「Welcome To Japan!」「Thank You, American Guy!」とかね。そう、意外だったのはロビン・ペックノールドの存在感。CDで聞く限りでは、職人気質のミュージシャンが集まった民主的なバンドかと思っていたけれど、ライヴでのメインはロビンだった。1曲の中で様々な表情/色合いを見せるプレイでも、彼の歌声とアコギのストロークが常に中心にあった。
アップリフティングにドライヴする「Ragged Wood」、『Helplessness Blues』の冒頭を飾る「Montezuma」、ロビンの熱唱と跳ねるピアノのリフが印象的な「He Doesn't Know Why」が続き、会場はさらに熱を帯びる。そして「The Shrine / An Argument」では、フリーキーなサックスが猛り狂う。ジョシュの力強いカウントで始まった本編ラストは「Grown Ocean」。いくつもの幾何学的な模様がスクリーンを彩り、コーラスは天高く舞い上がるようだ。動から静へ、滑らかに揺れ動く演奏は“Ocean”そのもの。開演前に投影されていた帆船のイメージが、僕の中で音像とひとつになる。
ヘルプレスネス・ブルーズ [日本盤のみ歌詞/対訳、解説付]

ヘルプレスネス・ブルーズ [日本盤のみ歌詞/対訳、解説付]

ちょっとしたブレイクをはさんで、ロビンがアコギを抱えてひとりで登場。ボディを叩いてのカウントとつまびくアルペジオの旋律が、静まり返った会場にこだまする。「Oliver James」をほぼアカペラで熱唱。もう、本当にスゴいとしか言えない。そのまま「I Let You」もひとりで歌いきったあと、再びメンバーがステージに登場。良かった!ジョシュもいる。デビュー・アルバムの冒頭を飾った「Sun It Rises」の明るいフィーリングから、切なくも荘厳な「Blue Ridge Mountains」へ。そして、ラストは「Helplessness Blues」。ヴォーカルの独唱からコーラスが重なり、アコギのストロークが加速する。ジョシュのフロア・タムとリム・ショットがビートを刻む。ミドル・テンポの間奏をはさみ、音の粒がカラフルに降り注ぐ。そこから、バンドはレコーディングされたヴァージョンとはまったく違うカオスへと一気になだれ込む!ジョシュは「これで最後だ!」と叫ぶように、スネアとキックを連射する。やがてシンバルを叩き割った瞬間を合図に、バンドは演奏を終了。メンバーは笑顔と会釈を振りまきながら、ステージをあとにした。

まあ、ジョシュのお別れの挨拶はないだろうな…と思っていたら、ドラム・キットの奥から這い出てきた!割れたシンバルをタオルでくるんでステージ最前列まで歩き出すジョシュ。ひときわ大きな声援が上がる。「危ないから、気をつけてね」って言ってるのかもしれない。ファンと言葉を交わしながら、タオルでくるんだシンバルを手渡すジョシュの姿が見えた。両手で大きく手を振りながら去って行く彼の後ろ姿。Tシャツの背中に大きな穴が開いているのが、可笑しくて泣けたよ。

良くも悪くもロビンとバンドという構図が見えたライヴだった。フリート・フォクシーズは(ジョシュの件も含めて)、メンバー同士のデリケートなバランスで成り立っている。アンコールの冒頭でロビンがひとりで歌った瞬間は、彼の計り知れないポテンシャルを目の当たりにした気がした(もちろん、バンド・メンバーのセンスやテクニックだって、ロビンに一歩も引けを取らないのは事実だけれど)。東京ドームで「Yesterday」をアコギ1本で歌ったポール・マッカートニー、武道館で手風琴を鳴らしながら「Nobody's Fault But My Own」を歌ったベックを思い出した。フリート・フォクシーズには、そのサウンドとは裏腹にロマンチックなバンド幻想はない。ロビンが求めて表現しようとしている音楽には、あのポリフォニックなコーラスとアコースティック・サウンドが必要なのだろう。これから先もロビン・ペックノールドというミュージシャンは、必ず大きな功績を残すはず。でも、その時もフリート・フォクシーズは存在しているかな?僕にはわからない。それほど彼の技量とセンスには目を見張るものがあった。力強さと儚さが隣り合わせの最高のライヴ。何もかもが、想像以上でした!

〈Fleet Foxes at 新木場Studio Coast 2012.01.20.Fri. Set List〉
1. The Plains / Bitter Dancer
2. Mykonos
3. Battery Kinzie
4. Bedouin Dress
5. Sim Sala Bim
6. Your Protector
7. White Winter Hymnal
8. Ragged Wood
9. Montezuma
10. He Doesn't Know Why
11. English House
12. The Shrine / An Argument
13. Blue Spotted Tail
14. Grown Ocean
Encore:
15. Oliver James(Robin Pecknold Solo)
16. I Let You(Robin Pecknold Solo)
17. Sun It Rises
18. Blue Ridge Mountains
19. Helplessness Blues