2012年は音楽の本も面白かった!

やれ「CDが売れない」だの「洋楽雑誌が相次いで休刊」だの「音楽ライターのギャラは…(涙)」だのと言われ続けて数年。けれども、それが“音楽業界の衰退”を象徴することだとは思っていない。僕は普段、広告業界の仕事をしているのだけれど、2012年はどの業界でも「広告費の大幅削減」は当たり前だったし、それ以前に「商品の開発/発売を見送る」こともあった。マーケットそのものからの撤退とか。音楽業界や出版業界など、ある特定の業界が衰退しているのではなく、(一部を除いての)ほぼすべての市場が何らかの国策的な補助がない限り、厳しい状況なのは言うまでもないこと。
そんな中でも、僕はひょんなことからクッキーシーンのライターとして活動の場を与えてもらい、今は微力ながらクッキーシーンWebの編集までやらせてもらっている。一社会人として働きながら、バンド活動も何とか維持しつつ、音楽を愛し続けてきた。そして、新たに「音楽について書く」という使命にも似た機会を得て、音楽との付き合い方はいっそう深まるばかり。
こんな時代に「音楽について書く」ということ。それが一体どんな意味を持つのか?ってことに、手っ取り早く答えを見出そうとは思わない。生きている限り、音楽は鳴り続けるだろう。書くこともやめないだろう。僕にわかっていることはそれだけだ。
2012年も音楽シーンは豊潤で楽しかった。そして「音楽について書く」ことに真摯に向き合う人たちがいた。「CDが売れない!」「本が売れない!」そんなことは、わかってるって!それでも“音楽の本を作る”ってことの意義。それは、音楽と言葉という文化の可能性そのものだと思う。前置きが長くなったけれども、2012年に僕が出会った音楽本を紹介します(順不同)。活字のグルーヴが、ひとりでも多くの方に届きますように!


ザ・ストーン・ローゼズ ロックを変えた1枚のアルバム

ザ・ストーン・ローゼズ ロックを変えた1枚のアルバム

クッキーシーン編集部員として僕も(巻末のWORKS、HISTORY、A to Zなどを)執筆させていただきました。この本を作っている間は本当に楽しかった!その楽しさが読んでくれたみんなに伝われば良いなと思います。2013年には、ローゼズの新作にも期待!


ハシエンダ マンチェスター・ムーヴメントの裏側

ハシエンダ マンチェスター・ムーヴメントの裏側

ニュー・オーダーのフッキーが語る“ハシエンダ”を軸としたファクトリーとマッドチェスターの栄枯盛衰。読後感は、オールナイトのパーティが終わったあとの夜明けのよう。詳しくは当ブログのこちらの記事へ。


ビートルズの遺伝子ディスク・ガイド

ビートルズの遺伝子ディスク・ガイド

本屋の音楽書籍コーナーで一角を占めてしまうほどの「ビートルズ関連本」。これは、その中でも最も特異で、最も刺激的な一冊になることは間違いない。そして、単なる「ビートルズ関連本」という範疇にも収まらないことも。ディスク・ガイドの形式ながら、「After00s」から「60s」へと時代を逆行する流れは、ロック・ヒストリーとしても楽しめる。そしてサウンド・メイキングの解説をはじめ、ヒップホップやダンス・ミュージックへの影響などを考察するコラムも読み応え充分。最終章が「JAPAN」だということにも納得でしょ。僕はP75の「ドリフ靴」がツボでした(笑)。“あの4人”はどこにも出て来ないのに、全ページに確かに“いる”。まさに遺伝子ならではの奇跡!


僕はクボケンさんにお会いして、お話を聞くことが大好き。UK/USはもちろん、日本の音楽シーンのあんなことやこんなこと…。それが、ついに1冊の本になりました。これからは、いつでも「あの話」が楽しめます!全ロック&ダンス・ミュージック・ファンは必読。こちらもブログに書きました。


モンチコンのインディー・ロック・グラフィティ―The First Annual Report Of Monchicon

モンチコンのインディー・ロック・グラフィティ―The First Annual Report Of Monchicon

インディー・ロックを中心とした音楽情報ブログ「モンチコン」が待望の書籍化です。SUB POP、4AD、SLUMBERLANDなどレーベル別に章立てしてあるので、とても読みやすい。それぞれのレーベル紹介はもちろん、インタビューやコラムも充実しているので、「知ってる」人も「知りたい」人も楽しめるはず。僕はページ欄外にちまちま(笑)と書き連ねてある「はみだしモンチコン」が大好きです!


ジョン・コルトレーン (文藝別冊/KAWADE夢ムック)

ジョン・コルトレーン (文藝別冊/KAWADE夢ムック)

僕にとって最初の「ジャズ」の入り口になったのはマイルス。その流れからコルトレーンを聴き始めてもう20年くらい。その間にいくつものディスク・ガイドや自伝を参照しながら、自分の耳と心で理解を深めてきたつもり。けれども、この1冊でまた改めてコルトレーンの音楽への愛着が深まることになると思う。「3.11以降の状況の中にコルトレーンを置いてみたら、果たしてどう聴こえるのだろうか」— 本書が投げかける問いは、“解釈を新たにする”という試み以上のものだろう。7月14日、四谷いーぐるでのトーク・イベントで購入しました。


2012年を「現在」としてベース/ビート・ミュージックを繙く。巻頭にレディオヘッドトム・ヨークの動きを配置し、視座を明確にしているところが僕にはわかりやすかった。シーンの成り立ち、詳細なディスク・レビューはもちろん、カッコいいデザインも素敵。2013年以降も有効だと思う。