1984年のTHE BOOMTOWN RATS


1984年といえば— ジョージ・オーウェルが描いた“ビッグ・ブラザー”に支配された近未来。それとも、夜空に2つの月が浮かぶ奇妙な時代の真ん中だったのかもしれない。けれども、僕にとっての『1984年』は、とても幸せで鮮やかな記憶として残っている。1972年生まれの僕は当時12歳。トーキング・ヘッズやカーズを見つけて、「洋楽」という新しい世界 —言葉もファッションも考え方までも、今までとはまったく違う発見の連続。それはまさしく僕にとって“世界”だった— に足を踏み込んだばかりの中学生。毎週水曜日(木曜日だっけ?)には「FM fan」を買って、FM番組やレコード・レビュー、最新のビルボード・チャートを夢中でチェックした。土曜日には夜更かしして「ベストヒットUSA」を見る。ろくに部活もせず、英語だけはしっかり勉強した。僕のまわりでは、いつの間にか友達どうしでレコードやカセットを貸し借りすることが当たり前になっていた。

そんな頃、ベストヒットUSAの1コーナー「タイムマシーン」で取り上げられた1曲に僕は心の底から打ちのめされた。それがThe Boomtown Ratsの「I Don't Like Mondays」だった。邦題は「哀愁のマンデイ」(日本語と英語カタカナ表記をミックスするセンスが最高!)。中学生でもピンとくるタイトル。ピアノをメインにした哀しげな曲調とボブ・ゲルドフインパクトが強すぎる表情に釘付けになった。

そこで僕は3つのことを知る。1つめは小林克也さんの解説で「I Don't Like Mondays」は、カリフォルニアに住む17歳の少女が小学校で銃を乱射した“現実の事件”をもとにした曲であるということ(コロンバイン事件のずっと前からアメリカはそうだった)。2つめはThe Boomtown Ratsのリーダー、ボブ・ゲルドフBAND AIDの中心人物であり、バンドはもう落ち目であること。そして3つめは、ロック/ポップ・ミュージックは“現実”のできごとを歌にできる、ということ。「月曜日がキライ!」という共感の域を超える思い。けれども、そこで起こった事実の行き場のなさ。当時の僕は、テレビ/ラジオ/レコードで聴ける歌はすべてフィクションだと思っていた。ある才能を持った一部の人たちだけが生み出せる“特別なイメージの結晶”だと思っていた。どうやら、それは間違いだったらしい。ポップ・ソングというカタチで、知る由もなかった現実を突きつけられたのがショックだった。決して上出来とはいえない「I Don't Like Mondays」のビデオクリップは、そんなふうに僕の心に焼き付いた。

僕はさっそくThe Boomtown Ratsのアルバムを集め始めた。「I Don't Like Mondays」が収録されているのは、3rdアルバム『The Fine Art Of Surfacing』。ヒットラーの恋人がエヴァ・ブラウンであることも2ndアルバム『A Tonic For The Troops』の「(I Never Loved)Eva Braun」で知った。そして、大好きなトーキング・ヘッズやカーズが「何を歌っているのか?」もチェックした。その過程でパンクと出会い、“現実”を歌うことの当たり前すぎるほどの切実さがわかった。

Tonic for the Troops

Tonic for the Troops

Fine Art of Surfacing

Fine Art of Surfacing

翌年(1985年)、世界中で話題をさらったLive Aidが開催された。僕はフジテレビでの生中継を一晩中起きて見ていた。(未だに賛否両論あるけれど)アフリカへのチャリティ・ライヴなのに、スタジオ演奏でお茶を濁すだけの日本のバンド/ミュージシャンに怒りを感じながら。“主催者”ボブ・ゲルドフは、場にそぐわないボロボロのデニム・ジャケットを着ていたのがカッコよかった。そして、The Boomtown Ratsは控え目なステージをこなして、ミュージック・シーンから姿を消した。
このあと、すぐに僕はThe SmithsR.E.M.そしてNew Orderを発見する。そして、その先にはVelvet Undergroundが待っていた。

I Don't Like Mondays(哀愁のマンデイ)

彼女の頭の中のシリコン・チップが
オーヴァーロードを告げる
今日は誰も学校に行かない日
彼女がみんなを家から出してくれない
パパにはそれがなぜだか分からない
「あの子は黄金のように素晴らしい」って
いつも自慢してたくらいだから
パパには理由が分からない
だって、理由なんてないんだから
どんな理由が必要だっていうの?


「なぜなんだ?」
月曜日がキライだから
撃ちまくって
一日をめちゃくちゃにしたいの


テレックスは音も立てずに
世界からの知らせを待っている
ママはとてもショックを受けて
パパの世界は大きく揺らいでる
ふたりは小さな娘のことを考えてる
私たちのかわいい16歳の娘が
こんな過ちを犯すなんて
ふたりには理由が分からない
だって、理由なんてないんだから
どんな理由が必要だっていうの?


今はもう、誰も校庭で遊んでいない
彼女は自分のおもちゃで遊びたいと思う
今日は午前で休校になったけれど
みんなは授業で
「どうしたら人が死ぬのか」を学んだ
拡声器は割れんばかりに響き渡り
警部でさえも「どうやって?なぜ?」
という思いを抱えたまま
彼には理由が分からない
だって、理由なんてないんだから
死ぬのにどんな理由が必要だっていうの?

追記:今年のIsle Of Wight Festival(ヘッドライナーはローゼズ)でThe Boomtown Ratsが再結成とのこと(涙)。ボブ・ゲルドフも参加!マジかよ!行きたい!
Guardianの記事
オフィシャルHP