モリッシー Live at CLUB CITTA' 川崎 2012.4.21.

かなり遅くなったけれど、モリッシーのライヴのこと。やっぱり書いておかなくちゃ。

スミス、トーキング・ヘッズR.E.M.ニュー・オーダーは、その音楽と出会った日から今日まで当たり前のように聴き続けてきたから、ノスタルジアはない。移り変わる日常の中で聞こえ方も変わるから、いつも新しい。たまに飽きてしまったりね!けれども、ライヴの記憶はちょっと違う。「Live」という言葉には、「いつ、どこで」という意味合いが深く刻まれているから。
僕が初めてモリッシーを見たのは91年の横浜アリーナ。直前の名古屋か大阪公演でファンがステージに殺到したっていう伝説(笑)が生まれた。だから、横浜は警備が厳重だった。僕はかなり後ろから見ていたからか、20歳という自分史上いちばん面倒臭い年頃だったせいか、あまり楽しめなかったと記憶している。終演後に"BONA DRAG"のTシャツを買って帰った。友達と「やっぱ、スミスで見たかったよな!」とか言いながら。そんなことを思い出しながらクラブチッタ川崎へ。僕は今も相変わらず、音楽が大好きで、スミスもモリッシーも大好きだ。

開演前のステージにはスクリーンが設置されていて、モリッシーのお気に入りが映し出されていた。ショッキング・ブルー、エルヴィス、フランソワーズ・アルディ、ニコ、スパークス。…そして、解像度の低いフィルムの中でニューヨークのドールたちが猥雑なロックンロールを鳴らすと会場は大歓声に包まれた。スクリーンが取り払われて、モリッシーと5人の男たちの登場だ!
モリッシーの第一声は「カ・ワ・サ・キ!」だった。「ニッポン!」でも「トキオー!」でもないところが、きっちりしてて良い。そしてオープニング・ナンバー「You Have Killed Me」が鳴らされる。バンド・メンバーは揃いの赤いTシャツを着ている。胸には“McCruelty”と“I'm hating it”の文字。マクドナルドのロゴに死んだ鳥のアイコンは、クスっとも笑えないところが狙いだろう。動物愛護団体「PeTA」のTシャツだ。仙台では裸の胸に“男”と書かれたメンバーが登場したと聞いていた。今日のモリッシーは戦闘モードなのかな?

最初からモリッシーとバンドのコンディションは万全のようだ。3曲目「You're The One For Me, Fatty」では大合唱がわき起こる。その熱気も覚めないうちに間髪入れずに響き渡る深いディレイとワウ、「How Soon Is Now?」がラウドに甦る!ソロの曲とスミスの曲を満遍なく散りばめたセット・リストは本当に隙がない。

YouTubeがない時代にVHSビデオで見たスミスの印象(どこかピリピリしていて、それはやはりパンクにも通じるストイックさと熱狂があった)とも、20年前の横浜アリーナでの記憶(スミスを払拭しようともがくカリスマっぽいイメージ?)とも何かが違っていた。残虐な動物屠殺の映像をバックに「Meat Is Murder」を歌い上げる姿にブレはないし、「Everyday Is Like Sunday」は2012年の日本にもリアルに響いた。そんな今のモリッシーをひとことで表すなら、とにかく“オープン”。観客へ何度も手を伸ばし、時にはおどけて見せる。「僕のバンドを紹介するよ。セクシーゾーンです!」だとか(笑)。こんなやりとりもあった。
「みんなは六本木にマンション持ってる?」
「ノー!」
「なんで持ってないの? 渋谷に家を持ってるんでしょ?」
「ノー!」

そして演奏されたのは「Please, Please, Please Let Me Get What I Want」だった。
未熟さ、曖昧なジェンダー、居場所のなさ。そして、希望と絶望みたいな何かを引き受け続けるモリッシー。スミスでの活動期間はたったの4年半。その凝縮された時間とソロになってからの20年という歳月が見事に再現された素晴らしいライヴだった。怒りと同じくらいユーモアが入り込む余地がある。いま、それは「優しさ」と言えるかもしれない。

「Please, Please, Please Let Me Get What I Want」
Haven't had a dream in a long time
See, the life I've had
would make a good man bad

So for once in my life
let me get what I want
Lord knows it would be the first time
Lord knows it would be the first time

2012.4.21 Morrissey@CLUB CITTA' Setlist

1. You Have Killed Me
2. Alma Matters
3. You're The One For Me, Fatty
4. How Soon Is Now? (The Smiths)
5. Ouija Board, Ouija Board
6. I Will See You In Far-Off Places
7. Last Night I Dreamt That Somebody Loved Me (The Smiths)
8. I'm Throwing My Arms Around Paris
9. Action Is My Middle Name
10. Speedway
11. Meat Is Murder (The Smiths)
12. Everyday Is Like Sunday
13. Still Ill (The Smiths)
14. People Are The Same Everywhere
15. Let Me Kiss You
16. To Give (Frankie Valli Cover)
17. Please, Please, Please Let Me Get What I Want (The Smiths)
18. First Of The Gang To Die
Encore
19. One Day Goodbye Will Be Farewell