Jah Wobble & The Nippon Dub Ensemble『Japanese Dub』

 PiL参加時にはロクにベースが弾けなくって(立って弾けなかったらしい)、座ったままライヴやプロモ撮影に臨んでいたジャー・ウォブル。逆にそれが「クール!」と言われちゃう恵まれたスタートを切った男。でも、ジョン・ライドンの後光に甘えもしなかったし、ビビリもしなかったことが偉いと思う。バンド脱退後はミュージシャンを諦めるどころかメキメキと腕とセンスを磨いて、今やパンク/ポスト・パンク世代が生んだ最高のミュージシャンのひとり。“ベース1本Dubバカ一代”で、まったくブレないところがカッコいい。
 ソロ・キャリアではCANのホルガー・チューカイ、U2のエッジと制作した『Snake Charmer』をはじめ、イーノ、ビル・ラズウェル、シニード・オコナー、The Orbなど数えきれないほどのコラボでイイ感じの重低音を響かせてきた。「ハイヤーでザンなサンもDubだな。ウォブル兄さん呼んどきゃ間違いない!」ボビーがそう思ったのも間違いない。


 そして、このアルバム。『間』の一文字が素敵すぎる。わかってる!
 ロンドン在住の日本人パーカッショニスト/マルチプレーヤーの広田丈自さんを中心とするThe Nippon Dub Ensembleとのコラボアルバム。バンド名義で今年のグラストにもはりきって出場したとのこと。ウォブル兄さんはこのアルバムを作る前にすでに“中華Dub”という偉業を達成されており、「もはやDubの向かうところ、敵なし」という気合いがビシビシ伝わってきて熱い。中学の時、音楽の時間に聞かされた「こきりこ節」がこんなにクールだったとは!

♫ま〜どのサンサもデデレコデン ♫は〜れのサンサもデデレコデン

 「K Dub 04」「K Dub 05」とか収録曲のタイトルも最高だと思う。Kは「こきりこ」のK。つまりこれはバージョンで、まさに「こきりこ Than The Sun a dub symphony in many parts」ということ。他にも「Mishima/Kurosawa」とか「Taiko Dub」とか、僕たち日本人の心をグイグイ揺さぶってくる。“日本かくあるべし”的な思い込みの激しさも含めて。

 そして、いよいよサマソニには、まさかの再結成PiLとまさかの『スクリーマデリカ』再現をキメるプライマル・スクリームがやって来る。もちろん、ジャー・ウォブルはどっちにも不参加(笑)。2つのバンドの名作と言われるアルバムに少なからず影響を与えたベーシストは、今も自由に音楽の旅を続けている。そのことを心の片隅に置きながら、僕は今年のサマソニを満喫するつもりだ。10年代を迎えても持続する、それぞれの初期衝動。最高にパンクだと思う。