もしもThe Carsがいなかったら?

先日、トーク・イべント『サエキけんぞう×クッキーシーン presents 洋楽トーク』を阿佐ヶ谷Loft Aに見に行った。ゲストは、お面なしのヒダカトオルさん(exビークルモノブライト)と桃野陽介さん(モノブライト)。Cookie Scene Essential Guide『POP & ALTERNATIVE '00s 21世紀ロックへの招待』に掲載されたアーティストの曲を聴きながら、あれこれ語ること数時間。とても楽しかった!最後に観客から「皆さんが初めて買ったレコード/CDは、何でしたか?」との質問に、ヒダカさんは「クラッシュの“This Is Radio Clash”」って答えてた。「だから、パンクにもディスコ・ミュージックにも、垣根なく入り込めたんだ」って。ふぅん、なるほどね!

というワケで、僕が初めて買ったレコード。それは、The Cars『Greatest Hits』だった。音楽を聞き始めた頃、テレビで「Tonight She Comes」のビデオを見て大好きになった。カーズは、80sのMTV黎明期に楽しいPVを連発して、ビルボードTOP40にもしっかりチャートインしてたバンド。僕にとっては、今でいうオルタナティブ・ロックとポップ・アート、いろんなサブカルチャーをたくさん教えてくれたバンドでもある。2000年代に入ってからは、トーキング・ヘッズの再評価が高まっているけど、カーズもね!

カーズといえば、まずリック・オケイセック。リックは、カーズ在籍時からソロ・アルバムをリリースしてた。1stソロは『Beatitude』。カーズよりもダークなポップで、僕はあんまり好きじゃなかった。でも、このアルバム・タイトルに注目!日本語にすると「至福」という意味。実は、ジャック・ケルアックアレン・ギンズバーグウィリアム・バロウズのビート3兄弟でおなじみの“ビートニク”の語源となった言葉。で、僕は『路上』を買って読んでみた。2度目に読んだ時、最高だと思えた。
2ndソロはテレヴィジョンのトム・ヴァーラインも参加した『This Side Of Paradise』。これはF.スコット・フィッツジェラルドの「楽園のこちら側」という作品からの引用だった。「楽園の〜」は手に入らなかったから、お約束「グレート・ギャッツビー」を購入。ケルアックもフィッツジェラルドもカーズとあんまり関係なさそうだったけれど、中学生だった僕には新しい世界。特にビートニクが大好きになった。
今やリック・オケイセックはプロデューサーとしても有名でしょう。ウィーザーの1stやナダ・サーフ、ホールとか。でも、その他にもエグいバンドのプロディースをしてるから、そっちも要注意!スーサイドの2ndとか、ラスタジャズハードコアの奇跡ことBad Brainsの「Rock For Light」とか。あとガイデッド・バイ・ヴォイセズの「Do The Collapse」もね!リックがプロディースした全てのバンドの売り上げ枚数を合計しても、カーズの足元にも及ばないはず。どメジャーだったクセにアンダーグラウンド/インディー大好きらしい。バラバラなチョイスが素敵でしょ。

そしてカーズはジャケットのデザインも素敵!アートワークはドラムのデヴィッド・ロビンソンが監修してた。特にカッコいいのが、5thアルバム『Heartbeat City』だと思う。アートワークには、ポップアーティストであるPeter Phillipsの“ART-O-MATIC LOOP DI LOOP”っていう作品を使ってる。僕はどこかのポップアートの展覧会で偶然発見してビックリした。「誰それ?」って言う人もストロークスの2nd『Room On Fire』をチェックしよう。タッチは違うけれど、同じくPeter Phillipsの作品だから。やっぱりジュリアンはセンスいいね!ちなみに、このアルバムに収録されている「Hello Again」のPVを監督してるのは、あのアンディ・ウォーホール!アンディもちょこっと出てるけど…ダサい。

ウォーホールっていえば、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド。僕はカーズを聞き始めてから、すぐにトーキング・ヘッズも好きになった。この2つのバンドの共通点は、モダン・ラヴァーズにある。カーズのドラマー、デヴィッド・ロビンソンとヘッズのマルチプレーヤー、ジェリー・ハリスンはもともとモダン・ラヴァーズのメンバーだった。その後、2人はジョナサン・リッチマンよりもリッチマンになっちゃったんだね。僕は石川町のタワーレコードで、その1stアルバムを手に入れた。もちろん、すぐに気に入った。セックス・ピストルズもこのアルバムに入ってる「ロードランナー」をカバーしてるよ。そして、このアルバムをプロデュースしていたのが、ジョン・ケイル。ジョナリチはヴェルヴェッツの追っかけだったとか。ヘッズもニューヨークのバンドだし。で、僕は仲間と一緒にヴェルヴェッツやらNYパンクやらを探求する長い旅に出ることになった。NYではなく、タワレコやユニオンでね!

さて2011年、ついにカーズが復活するそうです!ベースのベンジャミン・オール(イケメン)は、数年前に癌で亡くなってしまったけれど…。メンバーは補充せずに、キーボードのグレッグ・ホークスが兼任するみたい。サマソニかフジでの来日に期待!サマソニなら、ストロークスとの並びで見たいな。同じ日にファウンテンズ・オブ・ウェインも混ぜるとか、最高でしょ。しっかり売れてアンダーグラウンドにも通じるこんなバンドは他にいなかった。もうすぐ新作が出るストロークスはもちろん、スマパン、GbV、FOWなどなど影響は計り知れない。僕はいちばん初めにカーズが好きになって良かったと思ってる。来日してね!まさかの新曲「Sad Song」は、ちっとも悲しくなくて最高。